2000年3月1日水曜日

IT 革命と総合商社

商社株が注目されている。先日テレビで“サンデープロジェクト”を見ていたら、証券会社の部長さんの3 人のうち2 人が、IT 関連銘柄として商社株を薦めていた。それに対し司会(田原総一郎氏)はいまひとつ納得のゆかない様子であった。電子商取引が進めば中間業者は中抜きされるというイメージが根強いからだろう。

IT 革命が商社に与える影響を次の三つの切り口で考えてみたい。すなわち、1 )IT 関連の新規ビジネスと商社、2 )IT 革命に伴う取引形態の変化と商社の商権の帰趨、3 )IT による商社のコスト削減、の三つである。

まず、IT 関連で生じる新規ビジネスと投資については、商社は相当に有利な位置にあると見てそう異論はないだろう。商社はこの分野で多大の先行投資を積み上げてきている。またこの分野ではアメリカが一歩先を進んでおり、日本のIT関連の新規ビジネスはアメリカなどの技術や企業がグローバルに絡んでくる場合が多い。こういったアレンジは商社の得意分野で、いわば商社のお家芸である。

つぎにIT 革命が商取引に及ぼす影響だが、これについてはいろんな見方がある。総合商社のSCM 展開は確かにめざましいものがあるが、同時に商取引の電子化で機能のない中間業者が中抜きされる可能性もあるからだ。しかし見落とされがちな点だが、商取引の電子化は商取引の全体ボリュームを飛躍的に増大させるということが重要である。つまりITで取引コストが格段に安くなることで、従来インハウスにとどまっていた多くの工程が、自然に外部化され、従来は社内取引や工場内部の仕掛品の移動であったものが、今後は企業間商取引に置き換わって行くのである。つまりIT革命は最終消費額に対する卸売取引額の比率(W/R比率)を高め、川中の商社ビジネスは逆に増えるかもしれないのである。

三つ目のポイントは、IT革命による商社のコスト削減だ。現在アメリカにおいては、伝統的な産業(自動車製造、発電機器製造、農業など)で、ITを工程管理、資材購入などに活用することで大きなコスト削減が実現されつつある。日本の商社においてもそれが期待できる。総合商社の産出/投入関係を見ると、産出品目はいわゆる「商社機能」である。投入生産要素は「お金」と「情報」、それに「人」だ。これらの生産要素がIT革命ですべて安くなりつつある。調達方法の多様化で「お金」は安くなった。「情報」についても然り。最後の「人」だが、ITによるナレッジ・マネージメント・システムが整備されれば、商社マンの生産性を格段に上昇させ、単位労働コストを大きく押し下げることが可能になる。

以上の通り、総合商社がIT革命の担い手、IT革命の受益者として将来性が期待され、商社株が買われていることは、十分根拠のあることなのである。

(橋本尚幸)